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「おいおい誰かと思ったら随分久しぶりじゃないかい」
「これは神父様」
「え?井上さん。神父様をご存じで?」
「ああ。実はな…」

現れたのは乃木坂教会の神父である深川雅彦氏。この地区でも有力者の一人だ。
更には荒れていた麻衣を養子に迎え修道女として育てた方でもある。
しかし井上さんと知り合いだったことは知らなかった。

聞くところによると井上さんと神父はこの辺りでの野球塾の開催の時に知り合ったそうだ。
現役時代から世話になっていたという。


そういえば兼ねてから気になっていたのが何故井上さんが俺にここへ来るように勧めたのかだ。
それがずっと気になっていた。
確かに小百合ちゃんが働いているのが縁で呼んだのだと思った。
だが、彼女もまた就活に失敗していたところに井上さんから勧められて来たというからそれ以前から知っていたということだ。

そうなると一体どういうことか。

いや、いけない。
もうトライアウトまで時間がない。
そんなことを考えてまたフォームを崩してしまってはいけない。
俺は必死に邪推を振り切るようにバットを振った。





「しかしあのことはまだ彼には…」
神父が井上に何やら耳元で囁いている。

「いやぁまだ言う時期じゃないでしょ。それにまたプロに戻るとなると…」
「だが、もう麻衣は耐えられんぞ」
「分かっていますが今あいつは大事な時期なんです。今はあのことを知られては…」
「しかしなぁ…もうワシには抑えきれんぞ」
「早急に手を打たないといけませんな」

俺はそれが気になりつつバットを無心に振っていた。

「あっ足の上げ方が何か違う…」
俺はふと手を止めた。
振り向くとそこにはしゃがみこんで見ていた生田の姿があった。

「そうか。完璧なフォームだったが…」
「全然違ったよ。先生他事考えてる時いつも足が少し高く上がってる」

何ということだ。
いつの間にそこまで見抜けるようになっているとは。
やはりただの子じゃない。




「あの子のこともどうにかせんとなあ」
「そうですね。でもあの子がいたからあいつはここまでやれたんですよ」
「そうだな。生田絵梨花。あの子だけが誤算じゃったわ」
「それにあの子はあの人の娘さんですからな。話が余計にややこしくなりますよ」

俺と生田が笑顔で話しているほんの少し離れたところでは神父と井上さんが深刻そうな表情をしていた。
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