スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

52




「いよぉ~やってんなぁ!!」

トライアウトまで残り一週間となった時に何やら聞き覚えのある声が耳に入った。
ふと振り返るとやはり井上さんであった。

「ちょっと。どうしたんです?」
「どうもこうもない。激励だよ」
「いや井上さんが激励とか顔に似合わないことを…」
「バカヤロー。誰のおかげでここまでやれたんだよ」
「分かってますってもうすぐムキになるんですから」

このやり取りは日常茶飯事だ。
久々に会う恩師の顔を見て俺は一層やる気が出てきた。


「しっかしみんな可愛い子ばっかりやなぁ。道を外した子たちとは思えん」
「あいつらは根はみんないい奴なんです。ただちょっと寄り道が過ぎただけです」
「お前もプロ入る前は色々あったからな」
「もういいじゃないっすか。過去は過去。今はとりあえずトライアウトっすよ」

笑いながら話をしながらもトスバッティングをする。
思えば現役時代もこんなやり取りをしていたな。
もう一度井上さんとユニフォーム姿でこうして練習がやりたい。
俺のやる気はますます増していった。

やはり凄いわ。
どうしたら俺は彼女達をここまでやる気にさせてやれるんだろうか。
俺は力もあるし技もある。
しかしそれは野球だけで実際彼女達の生活改善の役には立っていない。

プロ野球に入るのは東大に入ることより困難と言われる。
だが、それ以上に一度汚名を残した彼女達が社会で一人前にやっていくのも難しい。
実際には挫折して再び犯罪の道に走って抜け出せない子たちの方が圧倒的に多いそうだ。
だが、そんな風にはさせたくない。

一体俺には何が出来るんだろうか。
俺はふと考え込んだ。


「おいどうした?はぁさてはまたあの子に見惚れてたのか?」
井上さんがタオルを投げてきてそう言うと我に戻った。

そしてふと玄関の方を見ると笑顔で俺らの方をみていた生田の姿があった。


「あの子最初に見た時からすっかり自然な笑顔になったよな。お前のおかげじゃないか?」
「え…?そ、そんなわけないじゃないすか。俺は野球以外に取り柄ないっすよ」
「いや。お前はあの子を変えてる。人は意外なところで人を変えているもんだ」

俺が変えている。

俺はふと今までのことを振り返ってみた。
スポンサーサイト

コメント

コメントの投稿

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。