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「では、今日はここまでにしましょう」


乃木坂学園では月に一度教会から神父と修道女を招いて懺悔の時間を設けている。
これは入った彼女達が自らの罪と向き合い、これからどう生きていくかを考えるためである。

俺は特にここまで罪とかそういうのを考えて生きてこなかった。
だから宗教に興味もなかったし神の教えがどうのなんて考えてもいなかった。


しかしその時間を覗くと意外にこういう教えは身近なところにある。
素朴な疑問、やったことなどを振り返れば当てはまることも多い。
そう考えると神の教えというのは理にかなっているものだと感心する。

彼女達は既にとんでもない十字架を抱えた子たちだ。
その彼女達が社会で再出発するのは容易なことでもない。
データ社会の現代。簡単に過去に犯した罪の記録は消えない。
一般の人でさえ働き口に困る現代で彼女達がまともに生きていける環境が十分整っているとはいえない。
今よりも寧ろここを出てからの方が試練は多い。
それでダメになりまたも罪を犯したり自らの命を投げうつ人も少なくはないという。


当初この時間は誰も参加していなかったり参加しても私語ばかりが目立つ酷いものだったそうだ。
それが一変したのは深川が修道女として関わるようになった2年ほど前のことだ。
彼女自身も罪を犯し、この学園で更生してきただけあって彼女達の心を掴みやすかったのだろう。

そういうわけで今日も非常に穏やかに時間は過ぎた。





「どうですか?」
聖書を両手で持った深川が尋ねてくる。

「え?あぁ順調っすよ。プロにいた時よりも体はよく動くし」
「でも今からプロに戻るのはすごく難しいみたいですが…」
「でも過去には浪人からプロへ戻った選手もいるので僅かな可能性に賭けてみないと」
「でもどうしてそんなことを…?」

深川の表情が一瞬曇る。
俺はそのことにも気付かず話し続ける。

「それに俺は野球だけしか生きてこなかった。ここまで育ててくれた人たちやここにいるみんなに恩返しするには野球しかないんすよ」
「育ててくれた人…ですか」
「特に親にはね。随分わがままにやってきたのにこんなところで諦めるのは何か違うと思って」
「親か…」
「あっすみません。何か喋りすぎたようで」
「いえ。それにしてもあなたは幸せ者だと思います。とても羨ましいです」

深川はそう言うと足早に去っていった。
俺は廊下を見るとそこに小さな水滴が少し落ちているのに気づいた。

色々複雑なんだなあ
この時はまだ俺は彼女のことをそこまでは意識していなかった。
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