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47

夜になり俺は再びバットを振る。

今回のことで俺はひとつ飛鳥から教わった。
「己に正直になれ」ということだ。



「先生。こんな日でもバット振ってるんだ」
そこへ生田がやってきた。

「そんないくちゃんもこんな日でもここへ来たか」
「ええ。もうすっかり習慣です」
「習慣ね。やっぱり慣れには勝てんな」

俺はバッティングフォームを確認する。
あの時の岩瀬さんの投球を思い出して再び振る。
どうやらあの壁はいつの間にか超えたようだ。

「先生。いきいきしてますよね」
「あぁ。今回の1件でやっと自分の気持ちに正直になれたからな」
「正直?」
「ああ。やっぱり俺は野球諦められないわ」

そう。一度は見切りをつけてここへ来た。
でも自分はまだまだ野球がやりたい。
だから今でもこうやってバットを振っているんだ。
そう思うと俄然力も入る。


「先生。どうするんですか?」
「ああ。来年のトライアウトを受けようと思う。その間は自分なりに練習して備えるつもり」
「でもそんな簡単なことじゃないでしょ?」
「まあな。だが、ここで諦めたら終わり。1%でも可能性がある限り俺はそれに賭けてみたい」
「でもそうなったら私たちは…」

生田の悲しげな表情を見て俺は少し胸が痛んだ。
そうだよな。
そうなると別れなきゃいけなくなるからな。
でも、俺はやっぱり野球しかないんだ。
ごめんね。







「ところでもう一度聞くけどいくちゃんの夢は何だ?」
「え?何よいきなり」
「本当はミュージカル女優になりたいんじゃないのかい?」
「な、何でそれを…」

実は生田のデータは予め読んでおいた。
ここに来る前は夢があって明るくていい子だったようだ。
そこには常にミュージカルに憧れていたとある。

実際聞きとりのシートには歌唱力、リズム力、音楽性どれにおいてもトップレベルとあった。
余程期待されていたんだろう。

しかし、彼女はある事件を起こしてここへやってきた。
俺はその詳細を読んで何とも言えない気分になった。
何はともあれその事件を機に彼女は夢を追う自分まで封印してしまった。
そう推測している。

だが、もういいでしょ。
いつまでもガラスの仮面をかぶってちゃダメだ。
前を向かなければ。


「でも私なんかが夢なんて…」
「いいんだよ。どんな過去があったって夢はみたっていいんだ。ダメなのは自分自身を偽ることだ」
「偽る?」
「そう。今のいくちゃんは自分を偽ってる。夢があるのにそんな自分に背を向けている」
「それは…」
「確かに色々あったのは分かる。でもそれで自分の夢を捨てちゃダメだ」
「ダメなの。私なんかが…」
「例えどんな間違いを犯したとしても夢は見ていいんだよ。だから前を向け。自分に正直になれよ」

俺の言った一言で生田の目から涙が零れおちた。
俺に出来ることはただ生田の思いを受け止めることしかなかった。


初めて自分に正直になれた日。
正直になることってこんなにも気持ちがいいモノなのか。
何となく今まで悩んだ日々が何だったのだろうかと思える。
何でもう少し早く正直にならなかったのだろう。
そんなことを考える。


人生なんてそんなものかもしれない。
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