スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

2

ロッカーを整理して寮から荷物を出して全てを出した。
これでいいんだ。

ふとグラウンドの方を見ると昨日までの仲間たちが汗を流している。
俺もこないだまであそこで地獄のノックとランニングをやって汗を流したよなあ。
コーチに激しくゲキを飛ばしてくれてくれた。
すごい嫌だったけどそれ以上に愛情を感じた。
みんな俺の復帰を信じて付き合ってくれたっけ。

おっと。このままでは気が変わりそうだ。
俺が契約金で買ったランクルに乗り込んだ時だった。


「おう!もう行くのか?」
「井上さん…」

声をかけてきたのは打撃コーチだった井上さんだった。
井上さんも俺が退団を告げられた日に同じくコーチ契約を解除された。
俺とは違い投手から野手に転向して長年レギュラーを張り一線で活躍。
華々しく引退してコーチになったが少し成績が不振になっただけで職を奪われる。

改めてプロの世界の厳しさを痛感した。


「お前もうアテはあるのか?」
「井上さんはあるんすか?」
「まあ俺は幸いなことに解説の仕事が出来ることになってな。それよりお前だよ」
「まぁ実家帰ってゆっくり職探ししますよ」
「お前それじゃアカンわ」

井上さんのアカンわ。これはまたズシッとくる。
確か入団当初打撃フォームを見て、言われて俺はフォームを改造した。
たかだか数センチの足の上げ方だ。

しかし、それがハマると俺は二軍戦でヒットを量産して一軍に呼ばれた。
井上さんのアカンわは聞き捨てることはできない。

「何がアカンのですか?」
「だってお前。強がってるように見えるぜ」
「いや。俺は別に…」
「いいんだって。野球辞めてく奴はみんなそんなもんだよ」
「じゃあ一体どうしたらいいんすか?」

俺はそう尋ねると井上さんは待ってましたと言わんばかりの表情で近付いてきた。

「お前。田舎暮らし出来るか?」
「は?」
「すまん。単刀直入に言うわ。実は俺の姪っ子が働いてる施設で今世話役を募集してるんだよ」

俺が施設の世話役?
一体何の冗談だ?
井上さんは形振り構わず言っているのか?

いや。井上さんはそんな人じゃない。
ちゃんと選手一人ひとりを気にかけてくれる人だった。
これは俺に適任だと思って言っているに違いない。


「何で俺なんすか?」
俺は井上さんに直球のストレートを投げた。果たして井上さんは何を返してくるか?
話を逸らすようにスローカーブかあるいは完全に横に置いたスライダーかそれとも…。

すると井上さんは思いもよらない返球をしてきた。

「まぁー行ってみりゃ分かるわ。少なくともお前ならいつかな」

はぁ?
おいおいどういうことだよ。意味が分からないぞ。

俺が戸惑っているうちに井上さんは消えていた。
俺は雲ひとつない青空を見上げる。

「こりゃ。行くしかねぇな」

こうして俺は華々しいプロ野球から片田舎にある小さな養護施設に行くことになった。
スポンサーサイト

コメント

コメントの投稿

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。